いくつか咲いた花のはなし

お腹にくまがやってきたことがわかって、とりあえず大学を休学することにした。夏のとてもとても暑い日、休学の手続きのためだけにわざわざ片道2時間かけて大学へ行き、担任になってる先生の研究室を訪れた。妊娠したので休学しますの言葉に、先生は声を上げて驚くなどはせず、静かに休学の手続きをしてくださった。今思えば本当にありがたいことだったし、多分先生はめちゃくちゃ驚いたと思う。そりゃそうだ。でもくまがやってきて間もない頃で、私もどうしたらいいか分からなかったので、酷い言葉をぶつけられたらやっていけなかったかもしれないので、手続きをしてくださる方が先生で本当によかったと思う。

 

それから先生は復学してから今まで学内でお会いしたら声をかけてくださったり、卒論発表会の時も褒めてくださったりしたことがすごく嬉しかった。わたしが退職することになって、最後にご挨拶をせねばと連絡したら、とても美しい文章のメールをいただいた。次のところでもご活躍されると思います、という内容の前に「あなたのことですから」という言葉が添えられていて、課長まじむかつく絶望〜!!!!!とぐずぐず言いながら辞める自分のことがめちゃくちゃかっこ悪くなった。お世辞かもしれないし社交辞令かもしれないし送る言葉だからそういう風に言うのかもしれないけど、先生の表情を思い浮かべると曇りのない言葉のような気がしたので、できるだけ明るい気持ちでいようと決めた。負けたりなんかしない、こんな風に言ってもらえて、それに見合う自分でいたい。ずっと気持ちでは負けてたのかもしれないな、ということに初めて気がついた。先生は約束の日、わざわざうちの部署まで来てくださった。それだけじゃなくて、お手紙とプレゼントまでいただいてしまった。こちらがお礼を言うべきなのになあ。私は先生のことがとても好きだけど、先生にとっても印象に残る学生でいられてたのかな、と嬉しくなった。大学卒業に関しての話になったとき、ご家族の理解があってよかったねと先生は仰っていて、あんまり考えたことなかったけど、確かに反対されてもおかしくないことではあるので、そうだなあと思った。

そういえば、初めてわたしがここに来たのはオープンキャンパスの日だったけど、はじめて受けた体験授業は先生の授業だったし、そのあとの個別懇談会でも先生とお話ししたな。最初に出会った先生に、最後にも送り出してもらえるってすごくしあわせなことだし、ここでの縁は十分使い果たしたような気がして、やっぱり辞めるのはいまでいいような気持ちになった。

 

ゼミの先生にもご挨拶に行くことにしたので、めちゃくちゃ久しぶりに文学部の校舎に入った。この校舎にしかない匂いがあって、懐かしい気持ちになった。研究室の前まで行ったけど、作品が〜という先生の声が聞こえてウワアーーー!!!!って、一気に学生に戻った気がした。先生にはボコボコにされまくったけど、色んなことを学べてたのしかったなあ。取り込み中かもしれないと思ったので、数時間後に出直す。再び文学部校舎。声がしないので今度こそ、とノックをして開けたら普通に学生さんがいたのでしまったタイミング間違えた……あっあっすいません……とだけ言って出直そうとしたけど、先生は学生さんにちょっとまってねとだけ言って出てきてくださった。先生いいひと………。(先生とのエピソードで思い出深いのは、ゼミの発表が当たる10分前に、保育園から電話がかかってきてくまちゃん発熱したのでお迎えに来てくださいって言われて、やばいどうしような……ってびくびくしながら先生に話したらあっさり帰してくれたことだ。その後2〜3日経って会ったあとにもう大丈夫なの?と聞いてくださったことも覚えている。その頃は大学に友達がほとんどいなかったので本当にありがたかったし、子育てに理解のある先生でよかったなあ。)

辞めるの、保育園ってなにするの、そうだよね保育士資格なんか持ってたか……?と思ってたんだよね、お子さんいくつになったの、ませたのはお母さんに似たんじゃないの、などと話し、流れている飲み会の約束を取り付けた。私はこの先生も結構好きなので、ほんとに行けたらいいなあ、でもいつかは来ないかもしれないね、とぼんやり思いながら自分の持ち場に帰った。校舎の中は時間が止まっているようで、外に出たら急に現実が押し寄せてきた気がした。

 

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花が咲いたと堂々と言っていい気がしたので